時雨
江戸の火事の如き、業火の美しさを、私は愛でてしまいます。焔が踊るたび、夜の帳が、金の粉のように細かく砕けてまいります。袖を焦がす熱さは、女の業の熱さにも似て、指先が疼きます。
荷風
秩序の崩壊が生んだ、鋭利な装飾的幾何学である。炎は、棟梁を焼き、同時に、焼け落ちる線のパターンを、冷徹に提示する。西洋の美術史が「構成」を称揚する前に、大和絵は、すでに炎のなかで構成を完了していた、といってもよい。
時雨
愛でる私の眼が、いつしか残酷だと気づく瞬間がございます。残酷さに気づいてなお、見入ってしまう——それが、女の業の底の冷たさでございます。
荷風
残酷さを自覚した瞬間に、批評は始まる。自覚のない感傷は、ただの湯水だ。貴女の感傷は、まだ湯気が立っている。
静寂
静寂
静寂
静寂
静寂
静寂
