調査ノート · 第2弾

棚に並ばなかった四十四枚——掲載を見送る、という判断について

前回の記事(なぜこの浮世絵はパブリックドメインと言えるのか——戦時加算とTPP11、ふたつの法をたどる)では、著作権の観点から「掲載できるかどうか」の判断をお話ししました。今回はその続きとして、著作権とは別の軸——作品としての質の観点から「掲載を見送った」作品について、その基準をお話ししようと思います。

このアーカイブに並んでいる作品の裏側には、実は「並ばなかった作品」も存在します。

ある審査の記録

以前、歌麿の作品を220点集め、一枚ずつ目を通したことがあります。結果は、176点を採用、44点を見送りとしました。割合にすると、およそ5枚に1枚は掲載を見送った計算になります。

これは「歌麿だから」という特別な数字ではありません。むしろ、どの作家・どの時代の作品を扱うときも、同じだけの比率で「見送り」が発生します。なぜなら、私たちがここで行っているのは鑑賞ではなく、審査だからです。

三段階のふるいにかける

見送りの判断は、思いつきや好みで行っているわけではありません。三段階のふるいを、順番にくぐらせています。

第一段階:禁止キーワードによる機械チェック

まず、著作権上のリスクや不適切な表現に関わる語句を機械的に照合します。ここで引っかかったものは、そもそも人の目で見る以前の段階で除外されます。地味な作業ですが、ここを飛ばすと後工程がすべて無駄になるので、最初の関所として欠かせません。

第二段階:目視レビュー

機械チェックを通過したものを、一枚ずつ実際に見ていきます。ここで確認しているのは、主に次のようなことです。

  • 構図として単体で成立しているか(切り抜きや部分図でないか)
  • 保存状態が著しく悪くないか(破損・褪色・書き込みなどで作品としての価値が損なわれていないか)
  • 出典・来歴に不審な点がないか
  • 掲載することで誤解を招く要素がないか

ここは最も時間のかかる工程で、220点であれば220回、同じ問いを自分に投げかけることになります。

第三段階:掲載可否の最終判定

前の二段階を踏まえて、実際に掲載する価値があるかを最終判定します。単に「著作権上問題がない」というだけでなく、「この作品をアーカイブに加えることに意味があるか」という、もう一段階踏み込んだ判断です。

なぜ、あえて基準を明かすのか

正直に言えば、この基準を細かく公開する必然性はありません。黙って良いものだけを並べればいい、という考え方もあるでしょう。

けれど、私はこの「見送りの基準」こそが、アーカイブの質を裏側から支えていると思っています。何を選んだかだけでなく、何を選ばなかったか、そしてなぜ選ばなかったかを示すことで、このアーカイブが単なる収集ではなく、判断の積み重ねであることが伝わるのではないか——そう考えています。

四十四枚の見送りは、失敗の記録ではありません。むしろ、残る百七十六枚の質を保証するための、必要な仕事だったと思っています。


この記事は、ApLink Designが継続的に行っているアーカイブ審査プロセスの一部を紹介したものです。